症例集

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椎間板ヘルニア

ダックスフントの飼い主さんならご存知かもしれません。最近人気のトイ・プードル、フレンチ・ブルドッグ、ウェルシュ・コーギー、ビーグルなどでも若年から発症が見られます。
 椎間板とは、背骨と背骨の間にあるクッションの役目をしている軟骨です(図1)。椎間板ヘルニアとはこの椎間板が本来の位置から突き出した状態を言います。突き出た椎間板物質は、背骨の中を走る脊髄という太い神経を圧迫して、様々な症状を起こします。

 

【典型的な症状】
・抱き上げようとするとキャンキャンと痛がって鳴く。
・動くことを嫌がって背中を丸めてじっとしている。
・後ろ足の麻痺によりうまく歩けない。
・尿や便の失禁。または、全く出ない。

 

 腰の痛みだけの軽度なものから、緊急手術が必要な重度なものまでありますが、適切な治療を怠ると生涯下半身麻痺が残ることもある怖い病気です。重症度により、一般的に1~5度のグレードに分けられます。

 

1度 背中の痛みのみで、初めての発症。歩行可能。
2度 ふらつくが歩行可能。姿勢反応の低下。2回目以降の再発。
3度 歩行不可能(前足だけでの歩行)。姿勢反応消失。
4度 歩行不可能。深部痛覚あり。意識的な排尿ができない。
5度 歩行不可能。深部痛覚なし。

 

椎間板ヘルニアの治療には1~2度の軽症例を対象とした内科療法と3度以上に適応の外科療法があります。
内科療法・・・厳密なケージレスト(ケージ内での絶対安静)、レーザー治療、薬物療法(エラスポール、副腎皮質ホルモンなど)。
外科療法・・・全身麻酔下で飛び出した椎間板物質を除去します。

どちらの治療にもメリット・デメリットがあります。一般的に、重症になればなるほど外科療法のメリットが高くなります。例えば、治療の成功率や回復までの期間、再発率など。

椎間板ヘルニアはワンちゃんの一生にかかわる深刻な病気です。この病気が疑われたら、少しでも早くご相談ください。最後に脅かしてしまって申し訳ありませんが、「明日でいいや」が一生の後悔になる病気です。

小型犬の膝蓋骨内方脱臼

小型犬、特にトイ・プードル、チワワ、ヨークシャー・テリア、ポメラニアンを飼ってらっしゃる飼い主さんに対するコラムです。
ワンちゃんの膝(ひざ)の前方をつまんで足を曲げたり伸ばしたりしてみてください。その時に膝の部分でカクン、カクンと違和感があったり、異音がするということはありませんか?
もし、そのような現象があるようでしたら、この病気の疑いがあります。

膝蓋骨(しつがいこつ;ひざの前方にある皿状の骨)脱臼とは、膝蓋骨が正常な位置より内側あるいは外側にはずれた状態で、小型犬では内側(内方)への脱臼が高頻度に認められます。


原因には遺伝的な要因の強い先天性と、打撲や落下などによる外傷あるいは栄養障害による後天性のものがあります。
軽症で無症状なものから常に跛行(びっこ)をするものまでありますが、寝ていた後や歩き出す前などに後ろ足を上げて3本足で歩いたり、びっこの後に足を伸ばして自分で外れた関節を治して歩き出すワンちゃんもいます。

獣医学的には脱臼の程度や骨の変形からグレードⅠ~Ⅳに分類されます。特に、先天性の場合、脱臼していても痛みがなく、気づかれにくい病気ですが、一般的にグレードⅢ以上は手術の適応となります。また、進行性のものですので、1歳未満でグレードⅡ以上であれば手術の適応となります。

当院でも比較的行われている手術ですが、外科手術にはグレードによって様々な術式が組み合わせて用いられます。整形外科の手術のため、厳密な無菌操作が必要となります。手術はグレードが高くなるほど複雑で、再発のリスクも高くなっていきます。グレードⅢ以上では4つの手技を組み合わせた手術となりますが、グレードⅣでは当院では行えない難易度の手術が必要となりますので、専門の先生をご紹介しております。

 

軽症の場合や手術をしたワンちゃんでは、生活環境に気を配ってあげることが必要です。床などは滑りにくいものにして、足の裏の毛が伸びたら滑らないように短く刈ります。また、高い場所からのジャンプも可能な限りさせないようにします。
軽症と思っていても、老化とともに関節炎を起こしたり、前十字靭帯などの断裂を起こして、歩行に問題が生じる可能性があります。疑いのあるワンちゃんを飼っていらっしゃるようでしたら、一度獣医師にご相談ください。ワクチン接種などの健康診断時にでも比較的簡単に発見できます。

足底潰瘍(ソアホック・飛節びらん)

ウサギさんをヨイショと仰向けにしてみてください。あるいは足を広げて伸びている時に足の裏を観察してみてください。
ウサギさんの足の裏には犬猫の肉球のようなクッションがありません。代わりに豊富な毛で覆われています。
しかし、いくつかの理由で足の裏の毛が失われると、時に命に関わる重大な病気になることがあります。

足底潰瘍(別名:ソアホック、飛節びらん)とは、この足底の皮膚におこる病変です。脱毛し軽度に赤く腫れる程度から重度な潰瘍を起こし、出血や感染をおこします。

骨に感染を起こしたり、それによって全身的な敗血症に陥り死にいたるケースもあります。

フローリングでの飼育やケージの底が硬すぎることが大きな要因になりますが、多くの飼主さんがスノコで飼育されているのに、病気になる個体と平気な個体がいるので、床材以外の要因も悪化につながると考えられます。
床が湿っていて不衛生だったり、ケージが狭すぎて運動不足だったり、栄養を取りすぎて肥満になることも原因として挙げられます。また、爪が伸びすぎていたり、全身的な体調不良や栄養失調でも発症の危険性が高くなります。

 

治療としては、まず飼育環境の再確認です。衛生的な環境で発症したのであれば、更にクッション性を持たせる為に、牧草を敷き詰めたり、市販の休足マットを何枚かケージに使用してみるのも良いでしょう。
併用して、ケージが狭い場合は大きめのものを用意したり、肥満のウサギさんでは、牧草を主食に出来るような食事環境で自然なダイエットを行います。
半導体レーザーを当てて炎症と痛みを緩和することも可能です。炎症の強いものでは頻回のレーザー治療が必要となりますが、効果は十分感じられると思います。

非常に治療に時間がかかる病気なので、日頃から足裏のチェックを行ってあげてください。

猫の口内炎

日常の健康診断で口の中を覗いてみると、歯肉が真っ赤に充血していたり、軽く触れただけで出血してしまうような、いかにも痛々しいお口を持った猫ちゃんに頻繁に遭遇します。
詳しくお話を伺うと、「ヨダレが出てお口が臭いんです」とか「最近硬いものを嫌がるようになりました」、「もう年寄りですから(笑)」等々、あまり病気という意識が無いようです。

口内炎とは口腔粘膜の炎症ですが、口臭や粘稠性の高いヨダレ、粘膜の充血・出血・ただれ、舌の潰瘍等で満足に食事が摂れなくなり、どんどん痩せ細ってしまいます。
口内炎を引き起こす原因としては以下のようなものがあります。


①歯周病・歯石
②異物(骨や針等)
③毒物
④ウイルス感染(猫の風邪)
⑤細菌感染
⑥腎不全による尿毒症
⑦糖尿病
⑧猫エイズや白血病による免疫力低下


このように、ひと言で口内炎といっても潜在する様々な疾患によって二次的に発症することが多いので、たかが口内炎と軽視せず、全身的な検査をされることを強くお勧めします。

治療としては、まず基礎となる疾患を診断することから始まります。その疾患の治療と並行して、抗生物質や消炎剤で口腔内の環境を改善します。

治療に対する反応が悪く、一度治っても再発を繰り返す難治性の口内炎では、全ての臼歯を抜歯する全臼歯抜歯療法というものが注目されています。様々な治療で改善が見られない場合の根治治療として当院でも非常に高い有効性が確認されています。
抜歯なんてかわいそうと思われるかもしれませんが、術後の経過も良く、食事も今までと変わらないものを食べられるので結果的に非常に快適な生活を送れるようになると思います。

あなたの愛猫に少しでも思い当たる点がありましたら、一度お口の健康診断に連れて行ってあげてくださいね。

軟口蓋過長症

最近人気のフレンチブルドックパグなど短頭種(たんとうしゅ)に多発する病気です。
軟口蓋(なんこうがい)とは上顎の奥の部分の人間であれば「のどちんこ」がついているあたりの部分のことです。のどちんこ(口蓋垂)は人間特有のもので、ワンちゃんには無いのですが、ここが人間の「のどちんこ」のように垂れ下がり、空気の通り道を塞いでしまうことで様々な弊害が現れます。
もともと、イビキをかくことが多いと思いますが、興奮するとすぐに吐き戻してしまったり、ちょっとした運動で呼吸困難になったり、熱中症になったりと非常に重症化するケースもあります。
構造的な問題なので、基本的には内科治療は効果がありません。全身麻酔が必要ですが、過剰に伸びてしまった軟口蓋を切除することで、苦しかった呼吸を楽にすることが可能です。
手術自体はただ伸びたものを切り取るだけの難しくない手技なのですが、短頭種のワンちゃんは他の犬種に比べて麻酔での危険がかなり上がりますので、当院では難易度の高い手術としてご説明させていただいております。
危険な麻酔をより安全に行うために、以下のような工夫が必要とされます。


 ①手術前から高濃度の酸素室で待機してもらう。
 ②万が一気管挿管が困難だった場合の緊急気管切開の準備を行っておく。
 ③手術後の炎症で呼吸困難を起こさないように、半導体レーザーなどの熱ダメージの少ない装置を利用する。
 ④並行して、外鼻腔の狭窄部位も切除する。

 

当院では従来の超音波メスの他に、2014年から最新の半導体レーザーメスを導入しました。
麻酔のリスクを考えた時に、手術を躊躇されると思いますが、従来よりずっと安全な手術が可能になっております。
今まで、苦しそうだった呼吸困難の症状緩和に大変役に立ってくれる治療法なので、ぜひご検討してみてください。
詳しくは、当院獣医師が時間をかけて説明させていただきます。お気軽にご相談ください。

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